はぴテク相談室:主観的幸福感の脳神経科学
最近、なんか毎日モヤモヤしていて…頭の中がぐるぐると考えごとをしてしまって、全然幸せな気分になれないんです。幸せって、そもそもどうすれば感じられるんでしょうか?
それは辛いですね。頭の中がぐるぐるしてしまう感じ、よく分かります。実は最近、理化学研究所の佐藤先生たちが「幸福感と脳の活動」についての面白い研究を発表されたんですよ。その話、少ししてもいいですか?
ぜひ聞かせてください!脳と幸福感に関係があるんですか?
そうなんです。この研究では、「楔前部(けつぜんぶ)」という脳の部位に注目しています。頭のちょうど後ろ側の内側あたりにある領域で、自己意識や記憶と関わっている場所です。研究によると、この楔前部の活動が穏やかに抑えられている人ほど、主観的な幸福感が高いという相関関係が見られたんです。
楔前部…聞いたことないです。その活動が「穏やか」だと幸せ、ということですか?
そうです。もう少し詳しく言うと、脳磁図(MEG)という装置で安静時の脳の電気的な活動を測ったところ、右側の楔前部で「ガンマ帯域」と呼ばれる高い周波数の揺らぎが少ない人ほど、幸福感のスコアが高かったんです。偏相関係数が-0.56と、それなりに強い相関でした。
「揺らぎが少ない」というのはどういうイメージですか?
いいたとえがあって、その楔前部は「マインドワンダリング」、つまり心があちこちさまよってしまうときによく活動することでも知られているんです。過去のことを後悔したり、将来を心配したり、自分のことをくよくよ考えたりしているとき、この部位が活発になりやすいと言われています。逆に活動が穏やかなとき、そういった「さまよう心」や「自分にしがみつく意識」が少なくなっている状態と考えられるわけです。
あ、まさに私がやっていることです!過去のことを振り返ったり、将来を心配したり…それが幸福感と関係しているんですね。
研究結果はまさにそこと符合しています。ただ一つ大事なことをお伝えすると、これはあくまで「相関関係」です。楔前部の活動が低いから幸福になる、と因果関係が証明されたわけではなく、「一緒に変化している」ということが分かった段階です。ですから、この脳の場所を見れば幸福度が完全にわかるとか、ここを操作すれば幸せになれる、とは今の段階では言えません。
なるほど、まだ研究途中なんですね。でも、心があちこちさまよっている状態がよくないとしたら、どうすればいいんでしょう?
この研究自体は対策を直接示しているわけではないのですが、研究者たちが注目している一つの手がかりが「NMDA受容体依存性のGABA作動性抑制性介在ニューロン」という細胞の働きです。難しい言葉ですが、簡単に言うと、脳の中で「興奮を落ち着かせる」役割をしている神経細胞のことです。この細胞が活発に働くと、楔前部の揺らぎが抑えられるのではないかと論文では示唆されています。
脳の中に「落ち着かせる役割」の細胞があるんですね。なんだか、脳って奥深いですね。
本当にそうですよね。ちなみに、この研究では幸福感を測るために「主観的幸福感尺度(SHS)」というアンケートを使っています。「全般的に見て自分は幸福だと思うか」「幸福な人たちのような特徴が自分にあるか」などの4つの質問です。幸せって測れないものに思えますが、こうやって丁寧に測定して脳活動と比べることで、少しずつ科学的に分かってきているんです。
自分でそのアンケートに答えてみたら、今の自分の状態が少し客観的に見えそうですね。なんだか、脳の話を聞いて「頭のぐるぐる」が少し他人事のように見えてきました(笑)
それは素敵な気づきです!「自分の心がさまよっているな」と気づけるだけでも、少し距離を置いて見られる感覚になりますよね。この研究はまだ始まりの段階で、今後さらに解明が進むことが期待されています。今日のお話が、自分の心と脳を少し優しく眺めるきっかけになれば嬉しいです。
■ 今日のまとめ
- 脳の「楔前部(けつぜんぶ)」という部位の活動の揺らぎが少ない人ほど、主観的幸福感が高いという相関関係が脳磁図(MEG)を使った研究で示されました。
- 楔前部は心があちこちさまよう『マインドワンダリング』や、自分自身についてくよくよ考えるときに活発になりやすい部位で、その活動が穏やかな状態が幸福感と結びついている可能性があります。
- ただしこれは相関関係の発見であり、楔前部の活動を変えれば幸福になれると証明されたものではなく、今後の研究のさらなる発展が期待される段階です。
■ 出典・注意事項
- 【出典】Wataru Sato, Takanori Kochiyama, Shota Uono, 'Neural Electrical Correlates of Subjective Happiness', Human Brain Mapping, 2025年4月. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40421899/
- 【注意事項①・相関について】本研究は楔前部のガンマ帯域fALFFと主観的幸福感スコアの相関関係(偏相関係数 -0.56)を示したものであり、因果関係を証明したものではありません。「楔前部の活動を抑えると幸福になれる」とは言えません。
- 【注意事項②・対象集団の限界】本研究の対象は特定の被験者集団であり、すべての人・文化・年齢層に結果が一般化できるかは不明です。
- 【注意事項③・研究の位置づけ】研究者自身も「幸せの要素の一部であり、相関が出ただけ」と述べており、楔前部の活動だけで幸福度が測定・診断できるという段階には至っていません。
研究自体の紹介はこちら😊
主観的幸福感の脳神経科学
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-12-20-1766225318/