はぴテク相談室:「なぜ現代人は幸せになりにくいのか?」— 進化心理学の視点から見た幸福論
最近、仕事でそこそこ成果を出せているのに、なんか全然満足できなくて。SNSを見ては「自分ってまだまだだな」って落ち込んで、また頑張って…の繰り返しで疲れちゃってるんです。なんでこんなに満足できないんでしょう?
それは本当につらいですね。でも、実はその「満たされない感覚」、あなたの意志が弱いとか、欲張りとかじゃなくて、人間として「自然な反応」なんですよ。最近おもしろい研究があって、進化の視点から説明できるんです。ちょっと聞いてみますか?
え、進化?どういうことですか?
人間って、何十万年もかけて進化してきた生き物なんですが、現代社会はここ1万年くらいで急激に変わったんです。つまり、私たちの脳や本能は「昔の環境」向けに作られているのに、生きている環境は全然違う。このズレを「進化的ミスマッチ」と呼ぶんです。Journal of Happiness Studiesに掲載されたHöffken(2025)という論文がまさにこのテーマを扱っています。
ズレ…具体的にはどういうことですか?
たとえば、SNSで「もっといいねがほしい」ってなる感覚。狩猟採集時代、人間は数十人の小さなグループで暮らしていて、仲間に認められることが生き延びるために本当に大事だったんです。だから「認められたい」という本能はすごく強い。でも今は、SNSで何千人もの人と一瞬で比較できてしまう。本能は昔のままなのに、刺激の量だけが爆発的に増えた状態なんですね。
確かに…!昔だったら「村で1番」でよかったのが、今は「世界中の成功者」と比べてしまってる感じ、すごくわかります。
まさにそれです!論文ではそれを「ヘドニック・トレッドミル」とも関連づけています。トレッドミルってランニングマシンのことで、どれだけ走っても前に進まないイメージ。何かを達成しても、すぐ「もっと上」が見えてしまって、満足が長続きしない状態です。これは意志の問題ではなく、脳の仕組みと現代環境のミスマッチから起きていると論文は述べています。
じゃあもう、どうしようもないってことですか…?
いえいえ!ここが大事なポイントで、論文が面白いのは「仕組みを理解すること自体が対処の第一歩」と述べているところです。「あ、今自分は本能に引っ張られているな」と気づけるだけで、意識的に距離を置きやすくなる。SNSを見て落ち込むのも、「これは昔の本能が過剰に反応してるだけだ」と俯瞰できると、少し楽になれるんですよ。
「本能のせいだ」って思えると、確かに自分を責めなくて済みそうです。他に何かできることはありますか?
論文では、人間が本来持っている幸福の要素に立ち返ることも提案しています。具体的には、仲間と一緒に何かを成し遂げる「協力」、他人との比較じゃなく自分自身が上達していく「技能の成長」、そして表面的なつながりじゃなく「深い人間関係」。これらは地位や消費とは違って、満足感が長続きしやすいと述べられています。
SNSの「いいね」じゃなくて、リアルな関係とか、自分の成長に目を向ける感じですね。でも、そっちに意識を向けるのってなかなか難しくないですか?
そうなんです、難しい。だからこそ論文は「意識的な距離を置く時間を作る」ことを勧めています。SNSや競争から完全に離れるのは難しくても、意図的に「見ない時間」を作るだけでも違う。大事なのは「自分が本能に動かされている」と知った上で、少しずつ選択していくことなんですよね。
なんか、満たされない自分がおかしいんじゃなくて、現代社会の構造的な話なんだと思ったら、ちょっと気が楽になりました。仕組みを知るだけでも違いますね。
そうなんです!論文の幸福の定義も「ポジティブな気分がネガティブな気分より多い状態」というシンプルなもの。完璧にポジティブじゃなくていい。まずは「自分の本能と現代社会のズレ」を頭の片隅に置いておくだけで、SNSを見て落ち込んだときも「あ、またミスマッチだ」って笑い飛ばせる瞬間が増えてくるかもしれませんよ。
■ 今日のまとめ
- 現代人が満たされない感覚に陥りやすいのは、意志や性格の問題ではなく、何十万年もかけて作られた人間の本能と、急激に変化した現代社会との「進化的ミスマッチ」が関係していると、この研究は述べています。
- SNSでの比較や「もっと上へ」という欲求は、本来は生存に役立った本能が現代の過剰な刺激環境に反応している状態。仕組みを知るだけで、自分を責めずに俯瞰できるようになる可能性があります。
- 深い人間関係・他者比較ではない自分自身の成長・仲間との協力といった「人間本来の幸福要素」に意識を向けることと、SNSや競争から意図的に距離を置く時間を作ることが、この研究では提案されています。
■ 出典・注意事項
- 出典:Höffken, O. (2025). Evolutionary Conditions of Happiness. Journal of Happiness Studies. https://link.springer.com/article/10.1007/s10902-025-00927-y
- 注意事項①:この研究は相関・概念的考察を中心とした論文です。「進化的ミスマッチが幸福を下げる」という因果関係が証明されたわけではありません。
- 注意事項②:提案されている対処法(SNSから距離を置く・人間関係を深めるなど)と幸福感の関連は示唆されていますが、すべての人に同じ効果が出ることを保証するものではありません。
- 注意事項③:進化心理学的な解釈は現時点で発展途上の研究分野であり、論文自体もこの分野の概観を示したものです。
研究自体の紹介はこちら😊
「なぜ現代人は幸せになりにくいのか?」— 進化心理学の視点から見た幸福論
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-09-10-1757532038/