2025.03.17

つながりを作りやすく、また抜けやすい地域は幸せ

〜関係流動性と幸福度〜

湖北大学のウェイ先生らの最新研究。

つながりは幸せにつながります。

一方で、関係が固定された環境だと、

つながりは深まりつつも、ちょっと大変だぞ。みたいな話もあります。(理想的には、その大変さも含めて楽しめると良いのですが。)

という事で、

新しいつながり作りがしやすかったり、ちょっとこのつながりは抜けたいなと思った時に抜けられる、

関係流動性

と幸福度の関係についての研究。

結果としては、

・中国で2万人ほど測った所、関係流動性が高い地域の人ほど、幸せ。

・世界34カ国7万人ほど測った所、関係流動性が高い地域の人ほど、幸せ。

・関係流動性が高いところに住むと、将来幸せ。(遅延交差分析で因果まで判明)

とのことでした。

さらに、

・収入や経済発展度、都市度なんかを調整しても、同じ結果だった。

とのこと。

ちなみに、日本も対象となっており、

関係流動性は世界34カ国中で最も低い😊(良くも悪くも)

一方で幸福度は真ん中くらいでした。

つながりを深めることが出来つつも、

好きにコミュニティに出たり入ったりする自由度もある。

田舎の良さと都市の良さ、みたいな所にも繋がってくる話ですが、

これらを上手く両立することが大切ですね😍

ーーー

■関係流動性尺度(Yuki,2007)

「彼ら(私の身近な社会の人々)は他の人と知り合う機会がたくさんある」

「彼らは新しい友人関係を作ることが簡単だ」

「彼らは他者との新しい関係に入ることが可能だ」

「彼らは自分の好みに基づいて、誰と友人になるかを自由に選ぶことができる」

「もし彼らが現在の関係に満足していなくても、その関係にとどまる以外に選択肢はない」(逆転項目)

「彼らは自分に合わない相手と付き合うことが多い」(逆転項目)

「彼らにとって、グループや集団から抜け出すことは簡単だ」

「彼らは自分が望めば、所属するグループを変えることができる」

「他の人々との交流や関係は状況によって決まり、個人の選択によるものではない」(逆転項目)

「彼らの社会では、人々は恋愛パートナーを選ぶ自由がある」

「彼らの社会では、人々は恋愛パートナーを変える自由がある」

「彼らの社会では、交際を始めたり終わらせたりすることは珍しくない」

回答者は「自分の身近な社会(学校、職場、町、近所など)」について以下の12項目に対して、1(強く反対)から7(強く同意)もしくは1(強く反対)から6(強く同意)の範囲で評価します。

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関係流動性文化の人々は幸福度が高いと報告

People in relationally mobile cultures report higher well-being

Emotion,2025

**Liuqing Wei, Alexander Scott English, Thomas Talhelm, Yan Zhang, Xuyun Tan, Jiong Zhu, Junxiu Wang **

https://psycnet.apa.org/record/2025-37034-001

関係流動性が高い文化では、人間関係は自由で柔軟です。人々は新しい友達を簡単に作ることができ、満足できない関係を離れる自由があります。関係流動性の低い文化では、人間関係はより固定化されており、人々は関係を離れる自由が少なくなります。有害な関係から抜け出し、新しいパートナーを簡単に見つける自由があれば、人々はより高い幸福を経験すると私たちは主張します。研究 1 では、すべて同じ国内の人々をテストすることで、制御された比較を実施しました。中国全土の 22,669 人の代表的なサンプルで幸福と関係流動性を測定しました。関係流動性の高い県の人々は、より高い幸福感を報告しました。研究 2 では、34 の文化の 74,657 人にわたって同じ関係が見つかりました。研究 3 では、関係の方向性についてより深い洞察を得るために、交差ラグ設計を使用しました。結果は、関係流動性が後の主観的幸福感を予測したが、その逆は予測しなかったことを示しまし た。全体として、これらのデータは、関係流動性の文化的環境が人々を幸せにすることを示唆しています。

投稿者によるコメント・補足(3件)
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■研究の背景

研究の前提となる既存研究について

この論文「関係性の流動性が高い文化に住む人々はより高い幸福度を報告する」の前提となる既存研究は、主に以下のような流れで展開されています。

幸福度の研究の流れ

研究者たちはまず、「何が人々を幸せにするのか?」という基本的な問いから出発しています。心理学者たちは長年、以下のような個人的要因を探ってきました:

  1. 個人的要因の研究

    • 性格(Diener & Seligman, 2002):特に性格特性と幸福度の関連
    • 経済状況(Diener et al., 2010; Jebb et al., 2018; Kahneman & Deaton, 2010):収入と幸福度の関係
    • 結婚(Lucas et al., 2003):結婚と幸福度の関連
    • 失業(Lucas et al., 2004):職を失うことの心理的影響
  2. 社会環境要因の研究への展開
    研究はその後、個人を超えた社会環境の特徴も幸福度に影響することを示しました:

    • 経済発展(Deaton, 2008):より発展した経済を持つ文化では人々はより幸せ
    • 気候(Fischer & Van de Vliert, 2011):穏やかな気候の地域での幸福度の高さ
    • 富の平等(Oishi et al., 2011):富の格差が少ない社会での幸福度

関係性と幸福度に関する研究

論文は次に、人間関係が幸福度に与える重要な影響に焦点を当てています:

  1. 関係性の重要性

    • Diener & Seligman(2002)の「非常に幸せな人々」の研究:最も幸せな人々に共通するのは豊かで満足のいく人間関係であることを発見
    • Haidt(2006):関係性が幸福度の最も強い予測因子の一つであることを指摘
  2. 社会生態学の視点

    • Talhelm & Oishi(2018)は「社会生態学」(社会環境の特性が人々の行動や経験に与える影響を研究する分野)という視点を導入

関係性流動性の研究

論文の中心概念である「関係性流動性」(relational mobility)は、以下のような既存研究から発展しています:

  1. 関係性流動性の定義と測定

    • Yuki et al.(2007):関係性流動性の概念を提唱し、測定尺度を開発
    • Thomson et al.(2018):39の社会にわたる16,000人以上の調査で関係性流動性を測定し、文化間の違いを示す
  2. 関係性流動性のレベル

    • 国家間の差異(Thomson et al., 2018):アメリカやブラジルが高く、マレーシアやエジプト、特に日本が低い
    • 地域間の差異(Yuki et al., 2013):同じ国内でも地域によって異なる
    • 状況間の差異(Bahns et al., 2012; Sato & Yuki, 2014):同じ文化内でも状況によって異なる
  3. 関係性流動性と人間関係の質
    これまでの研究で、関係性流動性の高い社会では:

    • 友人との類似性が高い(Schug et al., 2009; Thomson et al., 2018)
    • 友人からのソーシャルサポートが多い(Chen et al., 2012)
    • より個人的な情報を友人と共有する(Schug et al., 2010)
    • 友人やパートナーとの親密度が高い(Kito et al., 2017; Thomson et al., 2018; Yamada et al., 2017)
    • ギフトの交換がより頻繁(Komiya et al., 2019)
  4. 関係性流動性と幸福度の初期の証拠

    • アメリカと韓国での研究(Lee et al., 2019; Park et al., 2022):関係性流動性を高く認識する個人はより高い主観的幸福度を持つ
    • 中国での研究(Zhang & Zhao, 2021):関係性流動性が高い会社で働くことを想像した参加者はより幸せになることを予想

研究の限界と新たな方向性

これらの既存研究には以下のような限界がありました:

  1. 概念的不一致:関係性流動性は社会生態学的構成概念であり、個人レベルではなく集団レベルで測定するのが適切

  2. 共通方法バイアス:同じ調査で関係性流動性と幸福度を測定すると、回答スタイルによる疑似相関が生じる可能性

  3. 因果関係の不明確さ:相関研究では関係性流動性が幸福度を引き起こすのか、その逆なのかを判断できない

このような限界を踏まえ、本研究は以下の点で既存研究を拡張しています:

  • 大規模な代表サンプルの使用
  • 関係性流動性を地域レベルで集計
  • 幸福度と関係性流動性を別々の調査で測定
  • 縦断的デザインによる因果関係の方向性の検証
  • 単一国家内の比較と世界的なサンプルの両方を用いた検証

これらの既存研究を基に、本研究は「関係性流動性の高い文化に住む人々はより幸福である」という仮説を検証しました。

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■関係性流動性が高いと幸せである結果に対する考察

この研究結果に対して、論文の著者たちは複数の観点から考察を展開しています。

潜在的なメカニズム

研究者たちは、関係性流動性が幸福度を高める潜在的メカニズムとして以下の点を挙げています:

1. 友人ネットワークへの適応しやすさ

研究3で実証されたように、関係性流動性の高い環境では、新しい人が地元の友人関係に適応しやすくなります。この適応のしやすさが、特に新しい環境(大学など)に入った人々の幸福度を高める可能性があります。

2. 類似性(ホモフィリー)

関係性流動性の高い社会では、人々は性格、態度、興味などが似ている人と友人になる傾向が強いです(Schug et al., 2009; Thomson et al., 2018)。これは関係性流動性の高い社会では人々が友人を選ぶ機会が多いことを示唆しています。また時間の経過とともに興味が変わった場合に関係を終了する自由もあります。類似性が高い友人関係は幸福度を高める可能性があります。

3. ソーシャルサポート

関係性流動性の高い文化では、友人に対してより多くのソーシャルサポートを提供する傾向があります(Chen et al., 2012)。サポートを受けることは幸福度を高めますが、サポートを提供することが幸福度に与える影響はさらに強い可能性があります(Brown et al., 2003)。

4. 自己開示と親密さ

関係性流動性の高い文化では、友人との間でより多くの個人的情報を共有し(Schug et al., 2010)、友人やパートナーとの親密度が高い傾向があります(Kito et al., 2017; Thomson et al., 2018; Yamada et al., 2017)。また、ギフト交換もより頻繁です(Komiya et al., 2019)。これらの行動は、数十年の研究が示すように、自己開示が多い関係の中で人々がより幸福になる傾向と一致しています。

5. 信頼、敵対関係、離脱の自由

関係性流動性の高い文化では、見知らぬ人や一般の人々に対する信頼度が高い傾向があります(Thomson et al., 2018)。対照的に、関係性流動性の低い文化では、社会的ネットワーク内の人々に対する疑念、「敵対的友情」(frienemyship)、警戒心が見られます(Adams, 2005; Li et al., 2015; Liu et al., 2019)。関係性流動性の低い文化では、信頼できるかどうかに関わらず、周囲の人々と付き合わざるを得ないため、社会的ネットワーク内に敵を見出す可能性があります。逆に言えば、有害な関係から離れる自由があることが、関係性流動性の高い文化の人々をより信頼的で全体的に幸せにしている可能性があります。

関係性の安定性に価値はないのか?

研究者たちは、関係性流動性の低い文化が単に病理的なものなのか、それとも何らかの機能を果たしているのかという問いを投げかけています:

生態学的起源

関係性流動性の低い文化は、戦争、疾病、自然災害の歴史を持つ傾向があります(Thomson et al., 2018)。これは、固定的な社会関係が環境の脅威に対処するための適応反応である可能性を示唆しています。例えば、戦時中には、人々が社会的ネットワークを狭め、既に持っている社会的つながりを維持し、危険な可能性のある新しい人々を避けることが適応的かもしれません。現代では、関係性流動性の低い文化はCOVID-19による死亡者が少なかったという研究もあります(Salvador et al., 2020; Talhelm et al., 2023)。

稲作文化との関連

研究では、中国の稲作地域では関係性流動性が低く、それが幸福度の低さと関連していることが示されました。稲作文化における固定的な関係は、稲作が依存する大きな労働負担と複雑な灌漑ネットワークに対処するのに役立った可能性があります。

研究の限界と今後の方向性

著者たちは、以下のような研究の限界と今後の方向性も指摘しています:

  1. 実験デザインの限界:縦断的デザインでも真の実験には及ばない。今後の研究では関係性流動性vs安定性を模擬する実験設定が有効かもしれない。

  2. メカニズムの限定的な検証:友人ネットワークへの適応という一つのメカニズムの部分的な検証にとどまっている。効果の12%しか説明できていないため、他のメカニズムも検証する必要がある。

  3. 幸福度測定の限界:生活満足度と幸福度のみを測定しており、文化的に多様な幸福度測定(家族の幸福など)や徳に重点を置く幸福感(エウダイモニア)などの検討が必要。

総合的考察

著者たちは、世界中のデータが「関係性流動性の高い文化の人々がより幸福である」ことを示唆していると結論づけています。社会は社会生態学において異なり、人々が関係を形成する方法、新しい人々に会う機会、不満足な関係から離れる自由度が異なります。

これらの結果は、組織が幸福と信頼をどのように育むかについての希望的なモデルも提供しています。人々がより多くの人々に会う機会を持ち、関係を作る相手を選択し、競争的な関係から抜け出す自由を持つ社会環境を作ることで、人々の幸福度を向上させる可能性があります。

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研究1-3の詳細

「関係性の流動性が高い文化に住む人々はより高い幸福度を報告する」研究手法と結果

この研究では3つの異なる研究(Study 1〜3)を用いて、関係性流動性と幸福度の関係を多角的に検証しています。

研究1:中国国内での比較

研究手法

  • 参加者:中国本土31の省、328の県・市から22,669人
  • 期間:2016年8月〜2017年4月
  • 測定項目
    • 主観的幸福度:「人生満足度尺度」(Satisfaction with Life Scale)5項目と「全体的に私は幸せな人間だ」という1項目
    • 関係性流動性:「関係性流動性尺度」(Relational Mobility Scale)12項目
      • 例:「私の周りの社会の人々は、新しい人と知り合う機会が多い」
      • 例:「彼らが現在の関係に満足していなくても、そこにとどまる以外に選択肢がない」(逆転項目)
  • 分析手法:マルチレベル線形モデル(個人が県・市内に入れ子になっている構造を考慮した統計モデル)
  • 統制変数:性別、年齢、教育、個人収入、都市化、民族、職業状態、婚姻状態など

結果

  • 関係性流動性が高い県・市の人々はより幸福度が高い(B = 0.25, p = .044, d = 0.15)
  • この関係は以下の要因を統制しても維持された:
    • 都市化、所得格差、一人当たりGDP(B = 0.34, p = .012, d = 0.23)
    • 住宅価格(B = 0.30, p = .012, d = 0.21)
    • 集団主義、規範の厳しさ、長期志向などの文化的変数
    • 大気汚染、気候、緯度などの環境的変数

研究2:世界的な比較

研究手法

  • データソース
    • 関係性流動性:39の社会における16,939人を対象とした調査(Thomson et al., 2018)
    • 幸福度:世界価値観調査(World Values Survey)の波5-6(2005-2014年)から34の社会、74,657人のデータ
  • 測定項目
    • 主観的幸福度:2問(「あなたはどのくらい幸せですか」と「あなたは人生にどのくらい満足していますか」)
    • 関係性流動性:研究1と同じ尺度(回答スタイルの違いを考慮した潜在スコアを使用)
  • 分析手法:マルチレベル線形モデル(個人が社会内に入れ子になっている構造)
  • 統制変数:人口統計学的変数、都市化、所得格差、経済発展など

結果

  • 関係性流動性は幸福度の強い予測因子(B = 1.64, p < .001, d = 1.46)
  • 経済発展、都市化、所得格差を統制しても関係性流動性は幸福度を予測(B = 1.50, p < .001, d = 1.43)
  • 集団主義、長期志向、規範の厳しさなどの他の文化的次元を統制しても結果は維持された
  • 緯度、疾病有病率、気候要求、大気汚染などの環境的影響を統制しても同様

研究3:縦断的研究デザイン

研究手法

  • 参加者:中国の13の大学から1,186人の学生
  • デザイン:縦断的クロスラグデザイン(時間差のある2時点での測定を比較し、変数間の因果関係の方向性を調べる方法)
    • 時点1:大学入学後の最初の学期の終わり
    • 時点2:2-3年後
  • 測定項目
    • 主観的幸福度:「人生満足度尺度」
    • 関係性流動性:関係性流動性尺度
    • 地元の友人ネットワークへの適応:「簡易社会文化適応尺度」の1項目
  • 分析手法:クロスラグパネル分析(時点1の変数が時点2の変数を予測するかを検証)、媒介分析

結果

  • 時点1の関係性流動性は、時点1の幸福度を統制した後でも、時点2の幸福度を有意に予測(B = 2.07, SE = 0.48, z = 4.29, p < .001, d = 0.38)
  • 逆方向の関係は有意ではなかった:時点1の幸福度は時点2の関係性流動性を予測しなかった(B = 0.005, SE = 0.003, z = 1.43, p = .152, d = 0.13)
  • 媒介分析:地元の友人ネットワークへの適応のしやすさが、関係性流動性と幸福度の関係を部分的に媒介(全体の効果の12%を説明)

総合的な結果

3つの研究を通じて、関係性流動性の高い文化に住む人々はより高い幸福度を報告するという一貫した結果が得られました。この関係は:

  1. 頑健性:多くの交絡変数(経済的要因、文化的要因、環境的要因)を統制しても維持された

  2. 方向性:縦断研究(研究3)により、関係性流動性が後の幸福度を予測することが示され、逆方向の予測は支持されなかった

  3. メカニズム:関係性流動性が高い環境では、新しい友人関係を形成しやすく、地元の友人ネットワークに適応しやすいことが、幸福度の高さにつながる可能性が示された

  4. 効果の大きさ:国際比較(研究2)では大きい効果サイズ(d = 1.46)、中国国内比較(研究1)ではより小さい効果サイズ(d = 0.15)が見られた。これは関係性流動性の変動範囲の違いによる可能性がある

これらの結果は、関係性流動性が人々の幸福度に因果的に影響している可能性を強く示唆しています。

論文紹介 ありがとうありのままに 人間関係・恋愛主観的幸福・幸福測定文化と幸福・日本的幸福

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