2024.05.21

はぴテク相談室:リアス式海岸地域の幸せ

相談者

最近、地元の海のそばで暮らすことが幸せなのかどうか、ちょっと考えてしまっています。海って美しいし、魚もおいしいし、自然が豊かで好きなんですけど、台風とか津波とか怖いなって思うこともあって…。海沿いに住むことって、幸せにとってプラスなんでしょうか、それともマイナスなんでしょうか?

はぴテクさん
はぴテクさん

それは深いテーマですね!実はまさにそこに注目した研究があるんです。日本のリアス式海岸沿いの3つの地域——福井県の若狭町、岩手県の三陸、三重県の志摩市——で、海の恵み(生態系サービスと呼びます)と住民の幸福感の関係を比較した調査なんです。「安全」「豊かな暮らしの基盤」「良好な人間関係」「健康」「選択と行動の自由」の5つの側面から、住んでいる人が感じる満足度を調べたものです。

相談者

5つの側面、なるほど。海のそばに住むと全部に関係してくるんですね。でも、3つの地域で何か違いがあったんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

ありましたよ!基本的な5つの要素のつながりの構造は3地域で共通していたんですが、その強さが違っていたんです。特に面白いのは、「不安」の違いです。若狭町は地理的に津波のリスクが低い日本海沿いにあるため、津波への不安スコアが他の2地域より有意に低かった。そして「安全への満足度」が高く、それが「人間関係」や「健康」を通じて「選択と行動の自由」の満足度にもつながっていたんです。

相談者

「安全への安心感」が他の幸福感にも波及するんですね。じゃあ、津波リスクが高い三陸ではどうだったんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

三陸では、津波への不安スコアが若狭より有意に高くて、「安全への満足度」が相対的に低い状態でした。その結果、安全への満足度が「選択と行動の自由」に直接つながらない、という特異な構造が見られたんです。安全への満足度が低いと、他の幸福の要素への影響が出にくくなるということが示唆されていました。一方で三陸では、「豊かな暮らしの基盤」への満足度が「良好な人間関係」や「健康」に与えるプラスの影響が3地域で最も大きかったんです。

相談者

三陸は漁業が盛んだから、漁業で生活が成り立っていることが、人間関係にも影響するってことですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

そうなんです。研究でも、三陸は漁業が基幹産業であることから、生活の物質的な基盤への満足度が他の幸福要素の土台になっていると考察されていました。沿岸の小さな漁村では漁業活動が地域の人間関係に強く影響している、とも指摘されていました。ただし、これはアンケートをもとにした相関関係の分析なので、「漁業が盛んだから幸せになれる」と断言するものではない点は押さえておいてほしいです。

相談者

なるほど、因果関係ではなくて、関連が見えてきた、ということですね。では志摩市はどうでしたか?

はぴテクさん
はぴテクさん

志摩は若狭と似たところがあって、「安全への満足度」が人間関係・健康・選択の自由の満足度にプラスに影響していました。ただ一点、「健康への満足度」が「選択と行動の自由」には有意な影響を及ぼしていなかったのが特徴的でした。志摩ではリアス式海岸の穏やかな内湾で集約的な養殖が行われていて、水質悪化などの環境問題が指摘されています。そのあたりが健康と自由感のつながりに影響している可能性が論文内で示唆されていました。

相談者

集約的な養殖が環境にも影響するんですね。自然が豊かな沿岸地域でも、使い方によってはマイナスの面が出てくるということか。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうなんです。海の恵みをどう使うかによって、幸福感への影響も変わってくる可能性があるわけです。また、志摩では南海トラフ地震への不安も若狭より高かった。現時点ではまだ三陸ほど津波への実際の経験がないため不安は小さめかもしれないけれど、将来的に幸福感の構造に影響してくるだろう、と研究者は考察しています。

相談者

「不安」というネガティブな側面も、ちゃんと数値で測ったんですね。それが面白いと思いました。

はぴテクさん
はぴテクさん

そこがこの研究のユニークなポイントです!幸福感の「満足している」というポジティブな側面だけでなく、「不安に感じている」というネガティブな側面も同時にアンケートで定量的に測ったんです。そしてその不安の違いが、3地域の幸福感の構造の違いを生んでいたと分析されました。地域ごとの自然環境・社会環境に根ざした不安を把握することが、地域の幸福を考えるうえで大事なツールになりうる、というのがこの研究の提案です。

相談者

海沿いに住むことについて、一概に「良い」「悪い」とは言えないし、地域によって全然違うんですね。自分の住む地域の特性を知ることが大事なんだなと感じました。

はぴテクさん
はぴテクさん

まさにそこが核心だと思います。同じリアス式海岸・同じ気候・同じ水産業依存という似た条件でも、津波リスクの歴史や産業の多様性、環境問題の有無によって、幸福感の構造が変わってくる。「海沿いの暮らし=幸せ」でも「海沿い=不安で不幸」でもなく、自分の地域の自然・社会的な背景を理解したうえで、何が幸福感に関係しているかを見ていくことが、より豊かな暮らしを考えるヒントになりそうですね。

■ 今日のまとめ

  • 日本のリアス式海岸3地域(若狭・三陸・志摩)の比較調査で、「安全」「生活基盤」「人間関係」「健康」「選択と行動の自由」という5つの幸福要素のつながりの基本構造は共通していたが、その強さは地域によって異なっていた。
  • 地域固有の「不安」(特に津波不安)の違いが、幸福感の各要素のつながりの強さの違いに関係していた。津波不安が低い若狭では「安全への満足」が幸福全体に波及しやすく、津波不安が高い三陸では「安全」から「選択の自由」への直接のつながりが見られなかった。
  • 幸福感の「満足(ポジティブ)」と「不安(ネガティブ)」の両方を定量的に測ることが、地域の自然・社会的な背景に基づく人と自然の関係を理解するための有効なアプローチとして提案されている。

■ 出典・注意事項

  • 出典:Sustainability Science (2024年5月16日公開)「Regional comparison of the structure of human well-being related to ecosystem services in coastal areas of Japan: possible effect of anxiety unique to the ria coast」https://link.springer.com/article/10.1007/s11625-024-01508-3

  • 注意事項①:本研究はアンケート調査をもとにした構造方程式モデリングによる相関・関連の分析です。「不安が低いから幸福度が上がる」「漁業が盛んだから幸せになれる」といった因果関係を示すものではありません。

  • 注意事項②:対象は日本のリアス式海岸沿いの3地点(若狭・三陸・志摩)に限定されており、他の地域や異なる地形・文化的背景を持つ沿岸地域への一般化には慎重さが必要です。

  • 注意事項③:住民の「主観的な満足度・不安度」を測定しており、客観的な生活水準や健康指標とは異なる点にご注意ください。

投稿者によるコメント・補足(1件)
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研究自体の紹介はこちら😊
リアス式海岸地域の幸せ
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-05-21-1716328814/

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